2025年ジャパンカップ優勝者のフローリスト花咲・原 健吾氏にインタビューを行い、原氏の作品に込めた思いや、作品の構成、今後の目標などを伺いました。
原 健吾氏の作品を通して2025年ジャパンカップの競技紹介も掲載しています。

原 健吾氏について
バックパッカーから水道設備を経て、家業のお花屋さんへ

――まずは、お花屋さんになった経緯を教えてください。ご実家がお花屋さんなんですよね。
はい。私が務めているフローリスト花咲は、父親が創業したお花屋さんで、今は父からお店を継いだ形になります。
家業を継ごうと思ったのは、23歳くらいの時です。
高校を卒業してから、ワーキングホリデーでニュージーランドやオーストラリアなどでバックパッカーをしました。
日本に帰国してからは、社会経験のために親戚の水道工事や水道設備屋さんで2年ぐらい働いてました。
その後、家業(お花屋さん)が忙しい時に手伝うようになり、ズルズルとお花屋さんを始めた感じです。
――お花屋さんになる前に、学校などでフローリストの技術を学んだりはしなかったのですね。
そうです。高校は、お花と全く関係ない学校でした。
初めは強い意志があって始めたわけではなかったお花屋さんの仕事ですが、フローリスト歴は今年で23年目になりました。
――フローリスト花咲は、どんなお店ですか?
お店がある場所は、伊豆の玄関口って言われてる街です。
人口は比較的少ない田舎にあります。
隣が熱海市、南側に行くと修善寺温泉があります。
温泉場が周りに多くあり、箱根温泉も近くにあります。そのため、温泉旅館の女将さんがお花を買いに来ることが多いです。
お店では、旅館に合わせて枝物を充実させているようにしています。
ただ現在は、以前に比べて旅館関連のお客さまが少なくなり、花束などを買いに来る一般的なお客さまが7割ぐらいです。
店頭でお花を販売する以外には、ウェディングの装花も行っています。森の中やビーチで行う個性的なウエディングの装飾を手掛けており、そちらは現在注力しているところです。
花をライブで生けるパフォーマンスを行うflorist gramの活動

――原さんは、お店でのお仕事のほかに、「florist gram」というパフォーマンスチームでも活動されていますね。florist gramのこともお聞きしたいです。gramの活動について教えてください。
gramは2013年ごろに結成された男性フローリストによるチームで、花を生ける様子をパフォーマンスとして魅せる活動を行っています。
結成当時、男性のフローリストはあまり多くありませんでした。
しかしお花屋さんは、実は力仕事のため男性スタッフが増えてほしいと思い「お花屋さんてかっこいいじゃん!」「面白いじゃん!」と、思ってもらえるような活動をしようと思いました。
また、お花の魅力をたくさんの人に伝えたいというところで、gramでは一般の方に大型の装飾をしている様子をライブで見てもらえるのを目指しました。
普段、花ギフトを作る姿は、小さな花束やアレンジメントをお花屋さんへ買いに来た時に少し見るだけだと思います。
そこで、もっと大型の装飾をしているような部分をライブで見れれば、一般の方も「こんな風に作っているんだ」「こんな準備が必要なんだ」と伝わる、全部見てもらうようなチームを作りたいと思ったんです。
――具体的には、どこでライブを披露されていますか?
一番多いのは商業施設でのイベントや、オープニングのセレモニーです。
オープニングのセレモニー会場を、ライブで装飾するという感じですね。
――gramは海外でも活動されているんですよね?
チームで参加する、日本のフラワーアートアワードが東京で開催されていて、そのチャンピオンになると日本代表として、フランス大会の参加権がもらえるんです。
gramでもエントリーをして、過去2回フランス大会に出場させていただきました。
florist gram.が気になる方は、Instagramをご覧ください。
ジャパンカップ挑戦のきっかけは、自分の立ち位置を知るため

ーー原さんのジャパンカップの挑戦の歴史を教えてください。何年前がジャパンカップの初挑戦にありますか?
初挑戦は2011年だったと思います。ちょうど30歳になる年でした。
それまでは、こういった競技があるということも知らなくて、知った時に衝撃を受けました。
初挑戦の時は、静岡県で開催されていたジャパンフラワーオープンという別のコンテストがたまたまあった年でした。
その大会の優勝者はジャパンカップの権利をもらえるという大会で、そのままジャパンカップに参加することができました。
――初挑戦の年の成績はどうでしたか?
予選通過候補にはなっていました。ただセミファイナルにはもちろん進めませんでした。
――その翌年からは成績を残せていたのですか?その後、14年間ジャパンカップに参加し続けていたのでしょうか?
いえ、初めの頃は全然ダメでしたね。ジャパンカップの予選会(東海ブロックの予選会)で落ちたこともたくさんありました。
――予選を勝ち抜いて、ジャパンカップに出場したことは今までに何回ありましたか?
今年で10回目です。ファイナル競技には5回参加しました。
――そうなんですね。ファイナル常連のイメージがありますが、フラワーデザインの勉強っていうのはどこかでされていたんですか?
私自身は、勉強や修行にどこかに通ったりはしていませんでした。
フラワーデザインの勉強をし始めたのは、ジャパンカップに出てからですね。
もともと両親がフラワーデザイン教室の先生で、生徒さんが来てるような環境ではありました。
ただ、自分が花屋をやり始めた前後で教室はやらなくなっていたので、自分は両親の教室で教わる機会はありませんでした。
ジャパンカップに出るきっかけっていうのは、自分のやっていることが正しいのかや、自分の今の立ち位置をちゃんと確認しようっていうのがきっかけでした。
私は他の花屋さんで修行したことも、フローリストの学校にも行ったこともありません。
そのため、自分がやってることが正しいのかどうかも、どれぐらいできるかも分からない状況でした。
お花のコンテストに挑戦して、自分の今の立ち位置をちゃんと確認しようっていうのがきっかけで参加したあとは、お世話になった方の紹介などで月に1回程度花を生ける勉強に行くようになりました。
――今回の表彰式で、逝去された中山 佳巳氏の写真を抱えられていた光景がすごく印象的でした。中山さんともお花の勉強の中で知り合ったのですか?

中山さんは勉強とは別で、紹介していただきました。
ブロッサム・日坂さんが中山さんを紹介してくださって、2015年にアメリカで中山さんがデモンストレーションをされる際、一緒にアシスタントとして連れて行っていただきました。
それから中山さんのアシスタントとして、国際園芸博でオランダ・中国・北京・カタールなどに同行させていただきました。
中山さんからお花を教室で習うことはありませんでしたが、ただお話は毎日一緒にお酒を飲みながら聞かせていただいていました。
- 中山 佳巳氏
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静岡県掛川市出身のフラワーデザイナー。オランダ国立園芸学校(AOC)特別講師、一般社団法人JFTDフラワーデザイン公式審査員も務めた。2024年8月22日に逝去。
展示作品
- <展示競技とは>
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展示競技とは、デザイン性豊かな生花を主体とした未発表のオリジナルデザインであり、24時間飾れる作品を作る競技です。
- <2025年>
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展示サイズ:幅210cm×奥行210cm×高さ自由以内
2025年は、競技当日に会場で直径90cmのテーブルと複数の器が支給され、これらを使用して「テーブル・ディスプレイ」を3時間以内に制作するルールで競われました。支給された指定資材はすべて使う必要があり、その他に使用する資材と花材は、指定サイズ(縦100cm×横36cm×高さ26cm目安)の箱に入れ、3箱まで各選手で持ち込み可能でした。
2024年までは作品に使用する花材・資材に制限はなく、選手自身が事前にすべてを準備するルールで競っていました。しかし、2025ジャパンカップでは、出場する選手の負担軽減を目的として、ルールが大きく変更となりました。
着席した時の目線を意識
――今回の福岡大会のジャパンカップの予選作品、展示競技の作品の紹介をお願いします。
今年から大幅にルールが変わったそうですが、大変だったことは何ですか。

今年は、上の写真の資材を現地で支給される以外に、持ち込みできるのは菊箱3箱までというルールでした。
3箱分に収まるなら、資材・花材どちらも持ち込むことができましたが、そこに収まる用に花材以外を準備するのが大変でした。
うまく入りきるように、縦長のそれぞれのパーツは、マトリョーシカのようにまとめられるようにしました。
私は作品で使いたい花材は菊箱1つにまとめて、手荷物として新幹線で一緒に大会会場まで向かいました。
他に使いたい資材は、車で向かう同じ静岡代表の仲間に依頼して持っていってもらいました。
※菊箱とは、花材(この場合は菊)を輸送するための箱のこと。地域によって若干の差はありますが、菊箱の大きさの目安は縦100cm×横36cm×高さ26cm程度。
――今年のテーマは『楽しい食卓-花のフルコース-』でしたが、原さんはどう解釈されたのですか?

今年に限らずいつも持ち込みの作品(展示作品)の時は、考え方としては同じようなことから考えています。
今回に限っては食卓なので、椅子は用意できてないのですが、椅子に座る設定だろうなと思い、着席した時の目線で考えました。
今回に限らず前回大会でも、器を先に考えるのではなくて、お花を先に考えるというのが私のいつものルールというか、やり方ですね。
――使用する花はどんなふうに選んでいるのですか?
展示作品に使用する花は、特殊な種類ではなく、普段お店でも扱うような一般的によく流通しているものを選んでいます。
また、生け方も、ジャパンカップの競技のときだけ特別な技術を使うということはせず、普段の仕事でもやるような手法で制作します。
特殊な生け方とか、そういったのも私はあまり得意ではないので。
――原さんの思いを聴くと、作品に反映されているのが良くわかります。この作品の四角い柱模様は何をモチーフにされているのですか?

建築で使われる版築という技法をイメージしています。
版築は昔の建物の壁などに多く使われている技法です。
板で型枠を作り土やら泥を入れて踏み固めるのを繰り返すことで、地層のような模様になります。
先ほどもお話に出させていただいた、中山さんと初めて国際園芸博に行ったのが中国でした。
その時に万里の長城を見る機会があり、その万里の長城の壁も版築という技法で作られていて、今回それを作品にしたいなと思いました。
近年、旅館などだと左官でこの版築を表現する塗り版築という技法がよく見られます。
今回はそれを真似て、和紙を重ねて貼って、版築を作るようにしました。
今回、自分のテーマを書くということはなかったのですが、版築という技法と、中央に長い器を作って奥に抜けるような感じで作品を仕上げているのは、万里の長城を一緒に中山さんと歩いたイメージで作りました。
見上げるぐらい、見渡す限り続いているというようなイメージの作品になっています。
セミファイナル競技
- <セミファイナル競技とは>
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セミファイナルは、ステージ上で花束を作る競技です。テーマや使用する花材・資材は選手に事前に知らされず、競技開始の直前に発表されます。
- <2025年>
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テーマ:『食卓を飾る和風の花束』
制限時間:50分
2025年は用意された資材は3種類あり、その中から必ず2種類以上のアイテムを使う必要がありました。一方で花材は、必ず使用しなければいけないものはなく、用意された花材はあじさい・バラ・ダリア・グロリオサ・ルリタマアザミ・カラー・サンダーソニアなどがありました。
食卓のテーマに合わせ目線を邪魔しない高さで

――展示作品では細かい工夫もされていたのですね。続いてセミファイナル競技についてお聞きします。特に大変だったことは何ですか。
今年の競技時間は50分間で、テーマは「食卓を飾る和風の花束」でした。
今回のセミファイナルは、資材の中で3種類中必ず使用しなければいけないアイテムが、2種類以上ありました。
私は資材を使うのが苦手なので、大変でした。
過去のセミファイナルでは必ず使うというルールではなかったので、実は使ったことがありませんでした。
去年以前のセミファイナルでは順位を大きく落とすことが多かったのは、資材を使っていないのも理由の一つだったのではないかと考えています。
――用意されていた花材が多くありましたが、花束にどれを使うか決めるポイントは何かありましたか?
いつもは、お花から決めていくようにしています。
しかし、今回はどうしても資材を必ずというルールがあったので、資材にちょっと時間をかけすぎてしまいました……。
そのため、お花を選ぶ余裕が正直なかったです。
お花を触り始めたのも競技者の中で一番遅いタイミングだったので、なるべく下処理がなくてもいいお花を選びました。
――花束の構成は何から考えていますか?

セミファイナルの花束に関しては、全体のフォルムから考えました。
今回の資材でベースを作った時にも、どれくらいの長さにしていくかは、全体のフォルムをイメージしていました。
手元にある花材を見ながら「おそらく、ここに花が入ってくるだろう」というのを考えながら、全体のバランスの比率を想像しながら作成しました。
今回のテーマは「食卓を飾る和風の花束」だったため、あんまり高さを出すよりは、横に長いものにしようと思っていたので、それが明確に分かるぐらいの長さを横に取りました。
ザ・ファイナル競技
- <ザ・ファイナル競技とは>
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ザ・ファイナルとは、ステージ上でディスプレイ作品を作る競技です。セミファイナル同様、ステージ上で競技開始の直前にテーマ・使用花材・資材が発表されます。
- <2025年>
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テーマ:『2人の門出を祝う』
制限時間:70分
2025年は、資材として用意されたコンパネなどを固定する際に、アシスタントの補助が受けられるルールが加わりました。
花を「よく見せる」ではなく「良さを見せる」

――さて、つづいてファイナル競技についてお聞きしたいと思います。ディスプレイ作品は何から構成を考えていきましたか?
いつもはお花から考えるのですが、今回はまず資材で用意されていた半分金色に塗られたコンパネ2枚をどうするかを考えました。
今年はビスを止める際の補助や、パネルを押さえるなどで、最初に最大20分間アシスタントさんのお手伝いが受けられ、アシスタントさんがいる間は花を活けられないルールがありました。そのため、なるべく早く組み立ててアシスタントさんに退場していただかないと、お花に取りかかれないと考えました。
――競技テーマを受けて、原さんが作品を作るうえで考えていたことはありましたか?
競技テーマが「2人の門出を祝う」だったので、金屏風みたいなものを最初にイメージしました。
しかし、今回予選の展示競技の作品が「テーブル・食卓」がテーマになっていて、セミファイナルも「食卓」だったので、ファイナルもテーブルにしたいと思いました。

やっぱりお花の立ち姿など、その姿があってのお花だと思うので、なるべくそれを引き立てたいと思って作品を作っています。
そして、店のスタッフにも普段からお花を生ける時に必ず言っていますが、「よく見せる」ではなく「良さを見せる」っていうことをすごく意識はしてます。
予選からの作品も全て「よく見せよう」とすると、ガチャガチャやりすぎてしまうことがあるので「植物が持つ良さを見せる」ようにしています。
作品では自分がその植物のどこに魅力を感じたかを、明確に分かるようにしています。
そのため他の選手の方よりは、花を多くを混ぜ込めないことが多いです。
花が多くなるとごちゃごちゃになりすぎてしまうので、ちょっと花の種類は減らしがちです。
しかし花が少ない分、代わりにお花が最も美しいと感じるような使い方をやりたいと思っています。
素直に、花をあまりいじらず生けたいです。
フローリスト花咲の紹介

2025年ジャパンカップで優勝された、原 健吾氏のお店はフローリスト花咲です。
原さんが作った花束やフラワーアレンジメントが欲しいと思った方はぜひ店舗に足を運んでみてください。
住所:〒419-0114 静岡県田方郡函南町仁田80-12
TEL:055-978-9633
営業時間:9:00 – 18:00
定休日:水曜日(お盆・お彼岸・年末などは除く)
オリジナルメッセージカード

フローリスト花咲ではオリジナルのメッセージカードを作ることができます。
押し花が用意されており、自由にメッセージを書いたり押し花を貼り付けたりして、自分の思いが伝えられるメッセージカードをお花と一緒に届けませんか?
用意されている押し花は店舗で作っているため、季節によって花の種類が変わります。
季節を彩るディスプレイ

フローリスト花咲では、季節感を大切にしています。
季節感が出るように、旬の花を使って店舗内でディスプレイを展示しています。
飾る花だけではなく、押し葉が踏めるようになっていたり、ライティングや音を変えたりして、雰囲気を出すように心掛けているのだそう。
ディスプレイは2週間程度で変わるため、飽きることなく何度来ても楽しめるはずです。